その1
   

 いつのまに、猫がマンション敷地内に住みついてました。
 野良のハナちゃん。
 まだ一才未満で、きれいなアメショ柄でした。たぶん仔猫のうちに虐待されて、捨てられた子でした。 人の手を異常に怖がってました。どんな猫上手がかまおうとしても、手を引っ掻かれました。なのに自分で狩りはできなくて、人からゴハンもらわなきゃならなくて、マンションの玄関で、いつも誰かを待っていました。猫好きが通りかかると物陰から飛び出してきて、「ニャア」と一声、鳴きました。

 わたしはハナちゃんのため、いつもビニール袋とお皿とフォークと猫缶をバッグに入れてました。
 いつも出会えるわけじゃないから、会えた日は本当に嬉しかったです。
 頭のいい子でした。わたしの顔は一回で覚えて、スッ飛んできてゴハンの催促しました。
 ハナちゃんは食事中もわたしを警戒していて、けれど本物の野良ちゃんのような唸り声はあげずに、 上品にお皿を舐めてました。

 そんなハナちゃんが、妊娠しました。まだ子供だと思っていたから、猫好きみんなで驚きました。
 とにかく産ませて、仔猫の貰い手を探して、ハナちゃんの避妊手術をしなければなりません。いままでにも何匹かここに住みついて出産しましたが、仔猫はすべて死にました。大通りに面した立地で、敷地の一歩外は車ばかりです。敷地内も駐車場です。一人歩きができるようになると仔猫はみんな、停まっているタイヤにじゃれつき、発車した車に潰されました。
 ハナちゃんの子供の、そんな姿は見たくない。子供が親離れする前に、 一人歩きを始める前に、親から引き離さなければなりませんでした。

 ついにハナちゃんは出産しました。
 2002年、5月2日。人の腰まで雑草の茂っている給水塔の陰で、ハナちゃんを見たと、マンション管理人さんご夫妻が話してくれました。


産後のハナちゃん。くつろいでるけどオッパイ腫れてます。