その6
   

 毎朝、会社に行くのが一苦労でした。2匹とも、ママに捨てられると思ってるような必死さでしがみついてきました。スーツは破かれかけるし、バッグは奪われるわその上に乗られて「返すもんか」と威嚇されるわ。
 でもそのうち、待ってりゃそのうち帰ってくること理解したようです。おとなしく昼寝して待っててくれるようになりました。

 ところが、ある朝。
 なんとミミが、仮病を使いました。赤ちゃん返りでしょうか。
 会社に行こうとするとバタッと倒れて、痛い痛い、と目で訴えます。なでてやると大はしゃぎで喉ゴロゴロします。どうみても元気だからと会社行こうとすると、またバタッと倒れてみせて「痛い痛い」。それを見てダヤンも嬉しそうに喉鳴らしながらバタッと倒れて「痛い痛い」。名前も覚えないほど頭悪いのに、悪知恵だけは天才です。急に赤ちゃんの頃の記憶が蘇ったのかもしれません。具合さえ悪ければママがそばにいてくれる、という記憶。
 おかしくて、いじらしくて、会社に行けませんでした。
 ここまで寂しい思いをさせてたかと思うと切なくて、夕方までぶっちぎりで、ふりふり棒で遊びました。

 人間の子供と一緒です。甘えてスネて駄々こねて。
 だったら、甘えたがる時にはとことん甘やかしていいと思うんです。たぶんあっというまに大人になって、「ママなんか、どーでもいい」って顔で昼寝するようになるんですからさ。(笑)
 わたしも小さい頃、自分の母にそうしてもらった日があります。ある朝目覚めると、急に無性に寂しいのです。仮病を使って母に甘えて、遊んでもらいました。何日も休みました。そして「熱なんかないじゃない」と小突かれたとき、母の手が、温かかったのです。その手にありったけの愛を感じたときに、仮病癖が止みました。大人になった今も心の支えになっている、大切な記憶です。

 とはいえ翌朝出社したら、上司にドヤされました。
 「こんなに年中風邪ひくだなんて、ふつう信じるかボケ。まじめに働け!」
 当分は会社を休めそうにありません。
 おそらく仮病癖がついてしまっただろう猫たちを、どうしたもんかと思案しながら帰宅しました。すると二匹まとめて、筋肉痛になってました。遊びすぎたようです。丸くなって一日おとなしく過ごしてからは、けろっと仮病のことなど忘れたようでした。

 猫が猫なら、飼い主も飼い主です。寂しくなったら仮病使うあたりも、他人が産んだ子に思えないんですけど、気のせいですかね。

 
 ↑ダンナが精魂こめた陶芸作品を壊そうとする、プレデターズ。
 そして、陶芸より猫のが可愛いからと、笑って見ている極悪なワタシ。

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