その9
   

 このあいだ、両親が遊びにきました。
 なぜか父が、到着するなり物置部屋のほうへ逃げてしまいました。どうしたのかと問いつめたら、言いにくそうに小さな声で、「動物くさい・・・」と、つぶやきました。
 あわてて部屋中に消臭剤かけまくったのは言うまでもありません。
 にゃんこと暮らして一年半。ダヤンのお口はミントの匂い、ミミの香りはオレンジの香り、と、シャレでなく本気で信じ込んでました。でも他人には、ふつうの動物臭だったようで。
 アバタエクボもここまでくると、ちょっと危ないです。

 にゃんこのおかげで幸せになりすぎて、痴呆老人のように暮らしています。
 毎朝、にゃんこが起こしてくれます。目をあけると胸の上や腕の中に、この世のものとは思えないほど美しい生き物がいて、びっくりして目が覚めます。
 にゃんこにごはんをあげて、ダンナにごはんをあげて、お見送りをしたら、ゴールデンタイムの始まりです。にゃんこチッチの片付けをして、ふりふり棒でにゃんこと遊んで、にゃんこ抱いて、にゃんこ嗅いで、にゃんこに添い寝してもらいながら本を読んで、ゲームして、ネットします。このHPの掲示板にレスをつけ終わる頃にはすっかり、にゃんこがわたしに貼りついてるので、そのまま黄金のお昼寝タイムです。ふっかふかな極上の綿毛ふたりに包まれて、ほこほこ気分で眠りに落ちます。
 まさに、中世の王侯貴族の暮らしです。
 一日まるごと働かないで、ボーッとしてて、きれいなものに囲まれて、極楽浄土の音楽のような声聴きながら、美形にチヤホヤされて、世界がにゃんこ色に染まって、日が暮れます。

 この天国は、ダンナがくれたもの。ダンナが養ってくれるから。
 と思うと有難くて、毎晩、帰宅するダンナに「ありがとう、ありがとう」と言っていました。
 するとある晩、ダンナが言いました。
「人生で最初で最後の天国、よく味わってね。うちの会社、もうじき倒産するよ」

 え・・・・・・?

 そういえば、にゃんこがうち来た頃からずっと、倒産寸前ではありました。状況は良くなるどころかジリ貧で、今もゆっくりと足踏みしつつも、倒産へむけて傾いてます。
 おかしいとは思ってたんですよ。わたしみたいに、ろくな能も美もない一般ピープルが、こんな分不相応な場所にいられるだなんて。
 グリムもイソップも日本昔話もみんな、持つべきでない宝を手にした人に、バチあたってましたね。

 バチ、いつ当たるんでしょう。
 いつかは終わる天国が、せめて一日でも長くあってくれるよう、今はただ祈るのみです。


冷静に考えりゃ、肉食獣からミントやオレンジが香るはずがない。
だけどやっぱり何度嗅いでも、優しい匂いしかしない。

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