その13
   

 猫は、社会の弱者です。
 運よく優しい飼い主にめぐり会えればいいけれど、いつ捨てられるか、わからない。虐待されて殴られても、文句も言えない。口もきけない弱い者です。ふつうは守ってやろうとします。でも中には、道徳や良心の壊れた人間もいます。人が見ていないところで猫をいじめて、憂さ晴らしをしている人もいます。
 猫は愛玩動物です。ヤマネコならともかくイエネコは、体も性格も、森で暮らすには不向きです。人からゴハンをもらわなければ生きていけません。人のいない土地では、生ゴミすら漁れません。けれど、人にみつかれば虐められるから。人々の足元のポリバケツの陰にいながら、みつらないよう息を殺して、暮らしていくのです。
 うちの子たちだけでなく、そんな、よその猫のためにも何かができないものかと悶々としつつネットを巡回してたら、なぜか心惹かれる猫がいました。うちにはもう2匹いるので、実の子になってもらうのは難しいかなとも思い、お預かりして里親募集をさせてもらうことにしました。
 我が家にやってきたのは、翠ちゃん。五歳の男の子です。FIVは陽性でした。

 翠は、みーくん、と呼ばれています。
 はじめは飼い猫だったそうです。でも、ひどい飼い主だったようです。日常的に暴力までふるわれていたようで、翠は命からがら逃げてきて、流浪の路上生活者になりました。
 猫捕りに捕まりそうになったことも、心ない住民に嫌がらせをされたことも、飢えと寒さで死にかけたことも、何度もありました。

 ボス猫でした。
 厳しい環境で、それでも弱い仲間を守って、先陣切って戦ってきました。
 FIVは、ケンカの咬み傷から感染します。闘いが多ければ、それだけFIVの感染の危険は高まります。
 どの闘いの、どの負傷から感染したかは、判りません。
 私はこの感染を、勇者のしるしと思っています。

 心を閉ざした猫だったそうです。
 だけど、猫だから。どれだけ傷つけられても、心の底では甘えたいんです。時間をかければ必ず、その人だけの可愛い赤ちゃんになります。
 翠も、そうなりました。
 おなかを出して地面に転がって甘えます。なでてもらうの大好きで、地域の餌やりさんを独占したくて甘噛みもします。
 本当は誰よりも、愛に飢えた子でした。

 それでも路上生活者でした。
 その場所には23匹の猫がいて、餌やりさんにゴハンをもらい、うんちの掃除をしてもらい、ネットで里親募集をかけてもらっていました。
 つかのまの小康の日々でした。
 そして近所に、極度の猫嫌いが引っ越してきました。
 路上が、あっというまに戦場になりました。
 猫に、狂気的な嫌がらせをする人です。餌やりさんの守る力にも限度があります。

 大人の野良です。里親募集はかかっていても、なかなかママは現れません。それでも最初は23匹もいた仲間が、ひとり、またひとりと、ママが迎えにきてくれて、幸せになっていきました。
 翠は絶対、わたしが幸せにしてやる。先に幸せになった仲間のどの子のよりも、素敵な里親さん、わたしが探してやる。そう思ってました。

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